東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)94号 判決 1970年5月20日
原告
タケイ工業株式会社
代理人
渡辺勲
被告
特許庁長官
荒玉義人
指定代理人
渋江光友
外ニ名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実<省略>
理由
一 <略>
二 <書証>によると、原出願発明の名称は出願当初「高炉セメント使用コンクリート強化用混和剤及施工法」であつたが、昭和四〇年一二月二〇日付の手続補正書により、「高炉セメント使用コンクリート強化用混和剤」と訂正され、その明細書の「特許請求の範囲」の項には、「(1)粉末珪酸ソーダと、ナフタリンスルホン酸とアセトアミドと、珪酸ソーダ被膜で包んだ塩化カルシウムとを混和してなる高炉セメント使用コンクリート強化用混和剤(2)粉末珪酸ソーダと、ナフタリンスルホン酸と、アセトアミドと、珪酸ソーダ被膜で包んだ塩化カルシウムと乳酸鉄と酢酸銅とを混和してなる高炉用セメント使用コンクリート強化用混和剤」と記載され……ていることを認めることができる。叙上認定の記載事実に徴すると、原出願発明は、高炉セメントはその組成・成分の性質上均一性を得ることが困難であり、また、耐蝕性がなく、使用の場合乾燥が速く高分子化が十分行なわれず、湿潤状態を長時間保持して内部反応により均等な組織を作ることができない欠点があるところ、この欠点を除去してコンクリート組織に均一性を得しめ、かつ、コンクリートに耐蝕性、防水性、耐久性、強度を付与することを目的とし、その解決手段として特許請求の範囲記載の薬品を添加することをねらいとしたものであり、その発明の要旨は特許請求の範囲記載のとおりと認められる。
三 一方、書証によると、本願発明の明細書には、「特許請求の範囲」として、「(1)高炉セメントに水を加えて練り混ぜるに当り、これにけい酸ソーダと、ナフタリンスルホン酸と、アセトアミドと、けい酸ソーダ被膜で包んだ塩化カルシウムとを加えて第一次の練り混ぜを行い、次に水、砂、砂利を加えて第二次の練り混ぜを行い、その後に成形し、更に水養生を行なうことを特徴とする高炉セメントを使用する強化コンクリート製品の製造法。(2) 高炉セメントに水を加えて練り混ぜるに当り、これにけい酸ソーダと、ナフタリンスルホン酸と、アセトアミドと、けい酸ソーダ被膜で包んだ塩化カルシウムと、乳酸鉄と、酢酸銅とを加えて第一次の練り混ぜを行い、次に水、砂、砂利を加えて第二次の練り混ぜを行い、その後に成形し、更に水養生を行なうことを特徴とする高炉セメントを使用する強化コンクリート製品の製造法。」と記載され……叙上の記載事実に徴すると、本願発明は、高炉セメントの上記欠点を除去することを目的とし、その解決手段として特許請求の範囲に記載した薬品を用いることにより目的を達しようとするもので、発明のねらいは添加すべき薬品であり、その発明の要旨は特許請求の範囲に記載のとおりと認めることができる。
四 そこで前記認定した事実に基づき、原出願発明と本願発明とを対比するに、本願発明の特許請求の範囲(1)および(2)は、周知のセメント使用法に単に原出願発明の特許請求の範囲(1)および(2)記載のコンクリート強化用混和剤を添加するにすぎないものであり、両発明が高炉セメントを使用する場合に生ずる欠陥を克服する手段として開示したところは、表現形式上前者は物の発明であり、後者は「方法」の発明であるけれども、その技術思想は、高炉セメント使用コンクリート製造の際に添加する薬品すなわち強化用混和剤そのもので、全く同一であり、作用効果は右の添加する薬品によるものでこの点も両者同一であることを認めるに十分である。右に認定したところからすると、原出願発明と本願発明は、同一の使用領域に有利に使用しうる新規な材料を規出すことが発明のねらいであり、本願発明は原出願発明にかかる物の使用目的に従つた自明の使用行為にすぎず、それ自体何らの発明性を有しないものといわざるをえないから、結局、原出願発明と本願発明とは同一の発明と解すべきである。
五 原告は、本願発明は原出願発明と同一性がないとして、その理由を縷々主張するから、以下判断することとする。
まず、原告が「物」の発明と「方法」の発明は異なる旨主張する点について判断するに、本願発明と原出願発明とが同一の技術思想を開示したものであり、本願発明が原出願発明の自明の使用行為であつて、それ自体原出願発明に性質上当然含まれるべきものである点に徴すれば、両発明は単なる表現方法の相違があるにすぎないものと解すべきこと前説示のとおりである。「物」と「方法」の発明である以上、その発明の内容いかんにかかわらず、常に異別の発明と解する原告の主張は、到底採用できない。なお、原告は、原出願発明と本願発明は単に表現形式上の相違に止まらず、技術上の構成内容も異なり、本願発明の技術は原出願発明の構成上の必須要件となつていないから、両者は別発明である旨主張するが、さきに認定したとおり、原出願発明の技術内容と本願発明の技術内容は帰するところ同一であり、本願発明が原出願発明の自明の使用方法にすぎず、方法の点に発明性が認められない以上、独立の発明を構成するものといい難い。したがつて、原告主張のように別発明と解することはできない。
次に、原告は、本願発明の工程中第一工程は強化用混和剤を添加混練する点で周知のものと全く相違し、これにより周知の製造法の奏しえない作用効果を奏するものであり、また、添加物が新規な発明であり、これにより特殊な作用効果を奏するから、方法としての発明があるとみるべきであると主張するけれども、本願発明が原出願発明の自明の使用態様であり、本願発明の作用効果も原出願発明にかかる物より生ずるもので、原出願発明の目的とした作用効果にほかならないこと前記認定のとおりである以上、その方法に発明性があるものということはできない。したがつて、原告のこの主張も採用の限りでない。
その他、原告は、両発明の目的の同一性、最終的効果等に関連して主張するが、この点は原出願発明と本願発明が同一発明であるか否かについての前記判断で示したとおりであつて、これら原告の主張はいずれも右判断を左右するに足りないものというべく、採用するに由ない。
六してみれば、原出願には、二発明でなく、単一の発明が記載されているにすぎないから、本願は分割出願の要件を備えないものというべく、したがつて、本願は全く新たな出願とみるべきであり、特許法第四四条第三項の出願日の遡及を認めることができないところ、本願発明は先願である原出願発明と実質上同一の発明であること前記認定のとおりであるから、特許法第三九条第一項の規定により特許を受けることができないものといわなければならない。
七以上の理由により、右と同趣旨の判断をした本件審決には何ら違法な点はないから、同審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却……する。
(柳川真佐夫 武居二郎 楠賢二)